「女性の99%が暴力受けてた」エジプト出身ラッパーが語る、デンマークで難民になった話

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ローカルな旅と南デンマークを愛する北欧ツアーコーディネーター。毎日をちょっと特別に。

「結局、どこの国でも一緒でした。」

難民キャンプでの生活について、エジプト出身ラッパーのユッカ・シャニン(Yukka Shanin)さんはこう語りました。

彼女は歌手でありながら、社会活動にも積極的に取り組んでいる女性なのですが、難民として苦労した過去があります。

もともと難民としてデンマークに渡って来たわけではなく、デンマーク滞在中にたまたま難民になってしまった珍しいケースです。

インターン先のイベントで出会った彼女の話は壮絶で、ぜひ日本語でもシェアしたい!と思いインタビューしてみました。

エジプトでの女性差別、エジプトとデンマーク社会の違い、そして何より日本に暮らす日本人にとってあまり馴染みのない「難民になる」というテーマですが、何かを考えるきっかけになればと思います。

9/25 追記:タイトルと内容の不一致から、タイトルを変更させていただきました。これから読む人向けに。

女性の権利のために戦うユッカ・シャニン

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エジプト出身の26歳。ラッパーとして、主に男女平等などの社会的なメッセージを歌に込めて発信している。→ Youtube Channel(現在2曲のみ。理由は最後のまとめへ)

現在は、さまざまな場所で難民女性の権利について講演したり、RAPOLITICSという団体でラップの講師なども務める。

デンマークに来る前~エジプトの女性差別の現実

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―ユッカさんはラッパーですが、社会的メッセージも発信していますよね。活動家になった理由はなんですか?

ユッカ:とにかく、女性差別的なエジプトへの批判を込めて。エジプトは、世界の中でもかなり女性の地位が低く、住みづらい場所だと言われています。

だから私は、前から好きだったラップとかけあわせてRaptivist(Rapper+Activist)になろうと決めました。

―なるほど。でもそういう国だと、特に女性が反社会的なラッパーになるのは大変そうなイメージがあります… 実際に活動していてそう感じましたか?

ユッカ:もちろん。そもそもラップ業界が男性主体ですからね。女性がラップをするなんて誰も本気にしませんでした。音楽業界にいいように利用されることも……。

一番最初に行ったレコーディングは私だけ値段が高くて、マイクが割れていたんです。とても良い出来とは言えませんでした。

それに加えて、さきほども言った通りエジプトは女性の権利が守られていません。99%の女性が何かしらの暴力(Harassment)を受けた経験があります。性的暴力がほとんどですが、身体的なものでなければ、言葉で傷付けられます。

私自身があるし、母も、叔母も、友達の多くも経験しています。

―反抗したりはしないんですか?

ユッカ:それが、「女性が暴力を受けるのは当たり前」だと思う女性も少なくないんですよ。何かあったとしても、人前で話すのは恥ずかしいことだと思って隠したりね。

―日本でもそういうことはあります。ですが、こんなにも女性の権利が保障されていない社会になった理由はなんでしょう?

ユッカ:まず教育で男女の権利がちゃんと教えられていないこと。あとはメディアじゃないでしょうか。

大画面で、子供が女性をいじめている映画を見てみんな笑っているんですよ。異常です。それを他の子供が見て、女性はいじめていい対象なんだと学ぶから繰り返すんです。

エジプトとデンマーク、それぞれの社会の男女差意識

―デンマークに来たきっかけは何だったんですか?

ユッカ:ラッパーとしてある程度知名度が上がってきた時に、デンマークのとあるミュージックフェスティバルで歌ってくれないか、って招待が来たんですよ。

そこからライブツアーをしたり、デンマーク人の他の歌手とコラボレーションしたりして、活動の幅を広げていますね。

―男女の平等という意味では、やっぱりデンマークとエジプトとは違いますよね。

ユッカ:そりゃあね!(笑)北欧とアフリカ(中東)ですよ、ひとつも共通点がありませんでしたね!!!

デンマークにいると、自分のことを特に活動家とは呼べないなと思いますもん。

―と、言うと?

ユッカ:もうすでに人々の意識に男女平等が根付いているので、わざわざ人権のために争わなくていいんです。

たとえば、街中で知らない女性の腰に手を回したりしないじゃないですか。当たり前ですよね。ですが、エジプトでは違います。人権のために戦う活動家になる必要があるんですよ。

だから、デンマークでラッパーとして活動することはそんなに大変じゃありません。難民になったことに比べればね……。

難民になったきっかけ。ユッカが国に帰れない事情

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―もともとデンマークには歌手として招待されていたんですよね。それがどうやって難民になったんですか?

ユッカ:2回目にデンマークに来たとき、エジプトに住む友人からある動画が送られてきたんですよね。兵士が街を爆撃している動画でした。

実際に被害を受けている街の人以外は、そのことは知られていませんでした。なぜかというと、SNSに兵士の爆撃のことを投稿するのは禁じられていたからです。

私は衝動にかられて、リスクがあるとわかっていても、この現状をラップにして伝えたいと思ってしまったんですよね。

それで実際にリリースして、2日後には大ヒットしてしまいました。歌詞の中ではエジプトの大統領のこともディスっています。ラップってそういうものでしょ?

その次の日、朝また視聴回数をチェックしようとしたところ、曲がすべて削除されていました。

―おお、怖い……。それで、どうしたんですか?

ユッカ:メールを確認しようとしても、すべてハックされていたのでどうにも出来ません。その日の晩、私がエジプトで曲を収録していたスタジオで働く知人から、電話がかかってきました。

「ユッカ、多分エジプトには戻らない方がいい。今日、スタジオに君のことを探してる人たちが来たよ。」って言って、すぐ電話が切れたんです。

5分から10分間、何も考えられなくなりました。どんな気持ちだったか、想像もできないでしょ。しかも私のデンマークでの滞在ビザはあと2日で切れるってところだったんですよ。

―えっ!?2日後には不法滞在者になっちゃうと!

ユッカ:はい(笑)だからデンマークでお世話になったプロデューサーにちゃんと契約してもらって、すぐに資料を集めて。

ビザが切れる前日に移民局に向かいました。ですが、間違えて違うオフィスに着いてしまって。そこのスタッフの方が移民局の担当に、私が今から向かうことを伝えてくれました。

もうほぼ営業時間外だったんですけど、遅くなることも伝えてくれたんです。で、着いたんですが……。

移民局の担当の方に「6分遅れたからビザは出せない。」とあっさり断られました。

―ええええええぇぇ!?事情の説明はしたんですか?

ユッカ:全部しました。間違えて行ってしまったオフィスで、スタッフの方が営業時間外に到着すると伝えてくれたことも、明日から不法滞在になってしまうことも。

ですが担当は「でも遅れたでしょう。こっちのスケジュールも尊重してもらわないと。」の一点張りでした。

目の前でドアを閉められ、さすがに泣きましたね。歌手として招待されたデンマークで、まさか故郷にも帰れず不法滞在することになるとは。

―いやこれは泣きますわ……なるほど、難民どころか違法になっちゃったと。

ユッカ:そうです。お金も残っていなかったので、数日間は路上暮らしでした。

不幸中の幸いでしょうか。私のライブに来てくれたファンの中に弁護士がいて、難民担当で働いていたんです。そこで今度は、不法滞在者ではなく亡命者として登録してくれました。

これで晴れて難民キャンプに住むことになったわけです(笑)

難民キャンプ
亡命者(Asylum Seeker)が住む場所。これから、国に難民(Refugee)と認められるための申請をすることになります。人によっては、申請が通るまでに5年以上かかることも。基本的には、自由にキャンプ外に住んだりすることはできません。

難民キャンプでの生活は、危険と隣り合わせだった

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―キャンプにはどれくらい滞在しましたか?生活の様子ももしよかったら教えてください。

ユッカ:合計1年半で、3つのキャンプに住みました。どれも壮絶でしたね。

だって、毎日ひたすら申請が通るのを待ちながら、食べて寝て、食べて寝てを繰り返すだけなんです。他になにもしない。希望なんか持てませんよ。

持論ですが、キャンプに入る前と入った後で、まったく同じメンタリティを保つことは難しいと思います。

―たしかに、毎日それはキツそうですね……。一緒に住む人はどうでしたか?

ユッカ:精神不安定な人も多いです。ドラッグ中毒者や、犯罪者なども一緒に住んでいますしね。

基本的にみんな家族連れで国から逃げてきているので、1人で入ってきた私は変な目で見られることもありました。

―身の危険を感じることはありましたか?

ユッカ:そりゃもう。特に女性は99%セクハラされます。暴力を受けることは当たり前で、ひどいときは強姦されることもあるので、身の危険は常に感じていました。

キャンプ内に武器を持ち込んで、喧嘩していた人も多かったですしね。

―あれ、それってエジプトと同じじゃ……?

ユッカ:そうです。結局、どこの国でも一緒でした。デンマークは自由で、男女平等が徹底してる国。そう思っていたんですが、難民キャンプにいる人たちは、自国の男尊女卑の文化をそのまま持ってくるだけなんですよ。

場所が変わっても人が変わらなければ同じということですね。

さいわい私は1年半で難民キャンプ生活を終えることができましたが、長い人は5年以上キャンプに住んでいます。もう二度と戻るなんて考えられません。

今、ラップを通してユッカが伝えたいこと

yukkashanin

―デンマークにいる間、家族とは連絡できているんですか?

ユッカ:はい。さよならも言えずにデンマークに住むことになってしまったので、両親からは責められますが。

だから言ったろ、ラップなんかやるからこんなことになったんだ!と……。

―でも、それはラップのせいだけだったんでしょうか?

ユッカ:そうですね。たしかに私が女性ラッパーで、ラップの歌詞でビデオの内容を書いたから危険な目にあった、というのはあります。

ですが、私は間違っていたんでしょうか?正義のための行動が、逆に身を滅ぼすことになるんですよ。

多分ラップじゃなかったとしても、大きな何かを変えようとすると代償があると思います。両親も同じで、古い文化にずっとこだわっているのはそのせいじゃないかと。

でも戦い続けなきゃいけないでしょ?

―ラップを通して一番伝えたいことは何ですか?

ユッカ:真実です。政治的なことも含めて。

新たな真実を暴こうとかそういうことじゃなくて、もうすでに起こっていることを知らない人があまりにも多いので、私はラップで伝えたい。

女性の権利についても、これからもずっと話していきたいと思います。

―ありがとうございました!

まとめ

長くなりましたが、いかがでしたか?

インタビューをまとめるとこんな感じです。

  1. エジプトで、女性が差別されるのは当たり前だった
  2. デンマークとは違って、エジプトでは人権のために戦う必要がある
  3. 難民キャンプの問題は、難民が自国の差別意識を持ってきてしまうこと

9/25 追記:ユッカさんがエジプトから離れデンマークに来たのは2014年。エジプトについては3年ほど前の情報ということになります。今の情報はネットなどでしか知ることができませんが、少なくとも当時、ひとりの女性がそう感じていたということです。

彼女は今もラップで、講演で、社会に向けて発信しています。彼女のYoutube Channelは、以前ハックされたことや無断転載されたことから2曲しか入っていないのですが、現在新しい曲を収録中とのことです。

この記事が、さまざまなことを考えるきっかけになれば良いなと思います。

読んでいただき、ありがとうございました。